錯綜する二つの世界が到達する、驚愕の真実
孤高の作家・高坂譲が小説の新連載開始を目前に失踪した。画家ジョージア・オキーフを敬愛する担当編集者の小林慎一郎は、編集者ともほとんど会うことがなかった高坂の代理人を務める榛名潤子を下北沢に訪ねる。噂通りの「行儀のいい美人」に抱いた密かな欲望を、小林は彼にしか見えない内なる少女オキーフに指摘される一方、心理学者としての顔も持つ榛名潤子による、失われた記憶を呼び起こすカウンセリングにのめりこんでゆく。
原稿は榛名潤子を介して小林に届けられ、作者不在のまま連載はつづく。作家が遺した小説「オズワルドの追憶」は、勤め先の証券会社が倒産し下北沢で私立探偵を始めた厄年の男が主人公のミステリー。酒と煙草と女に目がない新米探偵・夢窓賢治に舞い込む仕事といえば、迷子の猫探しや中学生の苛め問題ぐらいだったが、あるとき女子高校生を狙った殺人予告の電話が鳴る。これが悪夢のような連続殺人の始まりだった……。
オキーフとオズワルド。二つの物語はやがて思わぬかたちで繋がりを見せ、衝撃の結末へ――。圧倒的なボリュームと巧妙に仕組まれた小説的な罠、そして目の前に現れる驚愕の真実。小説の可能性、面白さを存分に楽しめます。
【編集担当からのおすすめ情報】
この作品は、交互に語られる「オキーフの恋人」と「オズワルドの追憶」、二つのストーリーから構成されています。前者は主人公が彼にしか見えない内なる少女と語り合ったりと比較的重厚な筆致で描かれ、後者は時にユーモアもまじえた軽妙な探偵小説として描かれています。この毛色の異なる二つの物語が、互いにパラレルワールドとして相乗効果をもたらし、また作品に描かれた現実と虚構とが物語終盤で溶け合う様はまさに圧巻。著者の辻仁成さんが周到に仕掛けた「小説の可能性」を存分にお愉しみいただけるはずです。1000ページを超える大長編ですが、疾走感ある筆運びと読者を巻き込んでいく謎解きに時間を忘れ、あっという間に読み終えてしまう、満足度の高い一冊です。