人は視覚だけに頼ってものを見ているわけではない。住み慣れた街であっても、歩き方しだいで旅にもできるのは、人が視覚だけではなく想像力を使って自らの視点を拡大したり縮小したりできるからである。そろそろ私たちは、すっかり萎えてしまった想像力をもう一度鍛えなおす必要がありそうだ。目に見える便利さや快適さの陰に隠れて見えなくなってしまって心の目でしか見ることのできない真に価値あるものに光をあててみようと思う。本書は「便利なもの、不便なもの」「見えるもの、見えないもの」「快適なもの、不快なもの」「似ているもの、似ていないもの」「大きいもの、小さいもの」「変わるもの、変わらないもの」をとりあげ、それぞれをテーマに、気鋭の学者・作家・文化人三十人がエッセイと対談で、今という時代と私たちの足下を見つめ直した楽しい読みものである。