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  • 著者吉見靜子
  • 出版社新評論
  • ISBN9784794809582
  • 発行2013年12月

古民家は語る / 受け継がれてきた暮らし

これまで私は伝統的な民家を調査し、その建築形式を明らかにしてきた。訪れる度に、そこに住み続けておられる人々の思いや伝承されている生活文化などに感銘を受け、それを真摯に受け止めることによって「伝統的な民家」の特性を抽出してきたが、本書ではその舞台を滋賀県に絞って紹介することにした。  ご存じのように滋賀県は、中央に琵琶湖があるため、湖北・湖東・湖南・湖西という四つの文化エリアに分けられる。また、京と江戸を結ぶ交通の要衝ということもあり、いにしえの時代より多くの人々が往来してきた。そのため江戸時代には宿場町が形成され、地元の形式を基盤に、街道文化の影響を受けて特有の民家形式が形成された。現在、余呉型・湖北東型・湖北西型・湖東型・湖南型・安曇川流域型と呼ばれる民家が県内に数多く残っている。本書では、写真や間取り図を掲載しながらそれぞれの特徴を詳しく述べている。  実測調査を行い、図面を作成することにより、民家の形式と構造が明らかになる。また、住民などからの聞き取り調査により、住まいする人々の「誕生」から「生」、「死」に至る一生のすべてが「家」で営まれていたことも分かる。この「家」という空間は、形式・構造を基盤とし、代々受け継がれてきた住民の思いが重層しているため濃密なものとなっている。それは、構造材である部材にまで意味付けとシンボル化が行われ、そこに心の有り様が表現されていることからも明らかである。  気候・地理的条件や伝播された文化などの影響を受け、地域ごとに特有の形式(平面構成・構造・意匠)がつくり出されてきたわけだが、それらの条件を異にすることによってまた別の形式も生み出されてきた。例えば、小規模民家はその地域の原初的形式を示唆しており、規模を拡大することで生活の利便性や誇り、そして明るさなどを取り入れてきた。そして大規模民家では、素材や技術の素晴らしさだけでなく、絵画・工芸で部屋を飾るなど「美」の追求といった嗜好も見られる。人々が「生きてきた」証の一端が、古民家の中で行われてきた様々な行事に表れているのだ。古民家は、私たちに何を語りかけているのだろうか。(よしみ・しずこ)

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