教育」とは、世界中で同じものを意味するのでしょうか。学校で決められたことを勉強しても役に立たないと感じてしまうのは、なぜでしょうか。教育の機会を求めるのは、自分のためでしょうか。それとも社会のため、あるいは何か別のことのためでしょうか。 世界各地には、「ノンフォーマル(非正規)教育」と呼ばれる教育実践が数多く存在しています。その形態も内容も多種多様で、共通なのは「フォーマルでないこと」だけのようです。たとえば、発展途上国の教育や国際協力におけるノンフォーマル教育とは、学校に通うことのできない子どもや学童期を過ぎた大人に、限られた資源をやりくりしながら必要な教育を提供することを指します。また、様々な立場の人々が独自の目的をもって展開してきた学校外での教育や、大人が自主的に勉強したい場合もノンフォーマル教育と呼ばれているし、さらには日本の学校内で行われる教育活動のなかにもノンフォーマル教育と呼ぶことのできる要素が含まれます。 本書では、多様なノンフォーマル教育の全体像を捉えるための枠組みを提示したうえで、世界各地で実践されている様々なノンフォーマル教育を、それぞれの地域の歴史や社会事情などもふまえて幅広く紹介しています。執筆者は、比較教育、異文化間教育、教育開発、教育史、生涯学習・成人教育といった領域で国内外のノンフォーマル教育の事例を調査してきた若手研究者と、国際教育協力の現場でノンフォーマル教育のプロジェクトに携わってきた実務家たちです。 ノンフォーマル教育について考えるということは、教育のあり方を再考することでもあります。本書は、教育という営みの幅広さと奥深さを示す様々な事例を通じて既存の教育観を問い直し、将来に向けて「別様の教育」の可能性を模索する試みとなっています。(おおた・みゆき)