臨月の母を捨て出奔した父は、
私の想像の中でひた走る。
今まさに福岡を過ぎ、ボルネオ島を経て、
スフィンクスの左足の甲を回り、
エンパイア・ステート・ビルに立ち寄り、
グアダラマ山脈を越えて、父は走る。
蛍光ピンクのハーフパンツをはいて、
やせ細った毛深い脚で――。
若くして国内の名だたる文学賞を軒並み受賞しているキム・エラン。
韓国日報文学賞を歴代最年少で受賞した表題作や、
第1回大山大学文学賞を受賞した「ノックしない家」など
9編を収載したデビュー作、待望の邦訳。
★ 1980年生まれの著者が若くして文壇を席巻し、同世代から圧倒的な共感を得たデビュー短編集。本国では累計8万部を記録。
★「この本は、こわばった表情で私があなたに送る、最初の微笑みです」――キム・エラン