「エリンは笑いを忘れた。これこそ興奮そのもの。凝縮された戦意のすさまじい感覚が、エリンの体をつらぬいた。何という戦い。そして、戦えることはすばらしい。用意!今度の銃声は六つの爆発を生んだ。」オリンピック陸上競技の華、800M走。決勝に残ったのは6人。アメリカ代表ジャクソンとストーカー、ロシア代表ウラソフとコネフ、ドイツ代表ハーゼンイェーガー、そしてデンマーク代表エリン。しかしエリン以外は、大国の威信をかけて強力に作り上げられたオリンピック用マシーンだった。「おじゃま虫」と渾名され、圧倒的不利を伝えられるエリンに勝機はあるのだろうか?それぞれの選手と国家の思惑を背景に86秒間のドラマが、いま、スタートした。スポーツ界に蔓延するドーピング禍を予見し、大国の勝利至上主義に人生と命を奪われていくオリンピック選手達の悲劇を描いた近未来スポーツノベル。