本書は、あらゆるサイコ・スリラーの先駆けである『サイコ』ができるまでの内幕を余すところなく伝えたノンフィクションで、作者のレベロは、映画史上もっとも大胆不敵にして、もっとも影響力のある一作がこの世に生を受けるまでの舞台裏に迫っている。ヒッチコックの個人ファィル及び、スターやライターや技術スタッフとの微に入り細にわたるインタビューによって、さすがは巨匠とうなるヒッチコックの現場での斬新な視点に肉薄している。レベロの入念なリサーチで構成される本書は、われわれが知りたい『サイコ』ができるまでのすべてを網羅。この映画の原作小説のヒントとなった恐るべき猟奇事件を発端としつつ、その小説が脚本になっていく様子や映画の製作前段階、撮影の本現場、編集など製作の後段階、そして最終的な評価に至るまでの詳細を伝えてくれており、レベロの完璧で苦労がにじみでた筆致は、ヒッチコックの演出タッチにも匹敵し、ヒッチコックを思わせるようなディテールをゆるがせにしない筆の冴えによって、ヒッチコックがこの映画作りでいちばん大切にしてきたものを解き明かす、必読の内容となっている。