◇ アルフォンソ・リンギスは、こんにち、最も異彩をはなつ哲学者である。この本では、私たちを、イースター島、日本、ジャワ、ブラジルへの旅に連れだす。彼は、なみはずれた描写力で、無垢、罪悪への愛、喜びと暴力との関係、動物の宗教について、私たちに語りかけてくる。仕事や理性の領域が崩れたとき、私たちは、不安とともに、喜びに満ちた興奮や恍惚感を感じるのではないか? 私たちは、死を受け入れることだけでなく、臨終の喜びをも理解できるのではないか? リンギスは、異邦の土地での日常生活から生じる強烈な体験から、理性を出しぬき凌駕する情動や熱情を描きだす。
リンギスは、哲学のテクストの諸要素を、とくにメルロ=ポンティ、レヴィナス、ギブソン、そしてニーチェ、ドゥルーズの諸要素を、さまざまな土地や文化での日常生活から生じる奇妙な経験と混ぜあわせる。その印象的で大胆な表現は、哲学や文学、社会学といった領域だけでなく、フェミニズムやポストコロニアリズム論のあいだでも、さまざまな議論を引き起こしてきた。
この本は、哲学によって見落とされがちな、自分を浪費することの喜びに満ちた瞬間、侵害されることに身を晒すという出来事を探究している。それは、哲学が生を理解し生をよく生きる方法を提供しようとすれば、ぜひとも扱わなければならないような瞬間であり出来事である。
(本書より抜粋) 「自分を魅了するひとと効果的にコミュニケートするというのは、相手の統一、性質、独立性、自立性を打ち破る、つまり相手を傷つけるということである。精神的・物質的統一の裂け目を通じてのコミュニケーションは、結果を考慮することなく、渦を巻く。コミュニケーションそれ自体が「善」であるわけではない。コミュニケーションは将来への配慮をことごとく排除する。コミュニケーションは利害へのいかなる配慮も排除する。それゆえ、起こることや存在するものに直面して苦しむひとすべてに、私たちは惹かれるのだ。」(163頁より)