少女の目にうつる戦後の貧しい田舎生活。父と母、そして最愛の兄さんと幼い弟と妹。小さな共同体のなかで生きる子だくさんの家族。昭和二十年代の日本の原風景が丸ごと裸のままで立ち上がってくる。「もう死んだから下着もパンツもはかせないのか。いやだなあ、とわたしは思った。パンツぐらいはかせればいいのに」「母さんはわたしを見ると、兄さんが死んだこと思い出して、わたしがにくらしくなるんだ」少女の視線で鮮烈に描かれた「心臓が右にある」兄の死。そのリアルな描写には、思わず息をのむ。この小説は聖も俗もごた混ぜに生きる子どものエネルギーではちきれそうだ。