今に変わらぬ男女の小さな哀歓を、無限の共感で描いた、下町ものの傑作全七篇を収録。うらぶれた屋台店に居場所を求める男達の素描「嘘アつかねえ」、岡場所で交錯する秘密を持った男女を描く「夜の辛夷」、飛脚と宿の女の純愛を鶴の置物に託した「鶴は帰りぬ」、誰からも顧みられない少年と少女の思慕が哀切な「榎物語」、ぐれてしまった植木職人のやるせない生き様「あとのない仮名」、長屋住まいの浪人と棄児、住人との交流を軽妙に描く「人情裏長屋」、強欲な家主への長屋住人の抱腹絶倒の復讐劇「長屋天一坊」。巻末エッセイは、周五郎作品を多く演じた俳優、仲代達矢。