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  • 著者山口果林
  • 出版社講談社
  • ISBN9784062184670
  • 発行2013年8月

安部公房とわたし

「君は、僕の足もとを照らしてくれる光なんだ――」その作家は、夫人と別居して女優との生活を選んだ。没後20年、初めて明かされる文豪の「愛と死」。死であり、伴侶。23歳年上の安部公房と出会ったのは、18歳のときだった。そして1993年1月、ノーベル賞候補の文学者は、女優の自宅で倒れ、還らぬ人となった。二人の愛は、なぜ秘められなければならなかったのか? すべてを明かす手記。
「君は、僕の足もとを照らしてくれる光なんだ――」
その作家は、夫人と別居して女優との生活を選んだ。
没後20年、初めて明かされる文豪の「愛と死」。
師であり、伴侶。23歳年上の安部公房と出会ったのは、18歳のときだった。そして1993年1月、ノーベル賞候補の文学者は、女優の自宅で倒れ、還らぬ人となった。二人の愛は、なぜ秘められなければならなかったのか? すべてを明かす手記。
【目次】
プロローグ       
第一章 安部公房との出会い  
第二章 女優と作家      
第三章 女優になるまで    
第四章 安部公房との暮らし  
第五章 癌告知、そして    
第六章 没後の生活      
エピローグ        
【本文より】
 玄関に脱ぎ捨てられた見なれぬ靴と杖。部屋に灯りがついている。寝室に人の気配。そこには暖房を目いっぱい高くして、羽毛布団にくるまった安部公房がいた。去年のクリスマス・イブ以来の再会だった。
「ホテルまで探しにいったのよ」
「こんなに早く、ここへ帰ってこられるとは思わなかった」
「ここまでのタクシー代は持っていたの?」
「ポケットの小銭を渡して、まだ足りなくてゴソゴソやっていたら、運転手、諦めてドアを閉めて行っちゃった」
「マンションの表玄関の暗証番号、よく覚えていたね」
「玄関前でうろうろしていたら、顔見知りの住人が開けてくれた」
 一月の夜の寒空の中、しばらく佇んでいたらしい。
 安部公房が、ぽつりと言った。
「新田くんが結婚させてくれるって」

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