本書は書き損じも含め、大切に保管されてきた不染鉄からの絵はがきをまとめたものである。
それらは晩年一人暮らしとなった画家によって、夜更けに、奈良の小さなあばら屋で親しい知人に向けて書かれた。
不染鉄のまなざしは、つつましい暮らしの日常や庭先の自然へ注がれ、やがて画室を越え、かつて暮らした伊豆大島の海辺の日々、幼い頃の思い出にまで届いてゆく。
150通を越える絵はがきに綴られた絵と文章について、「これはあなたを世の中の的として放つ矢なんで個人の通信文ではない」と自身が私信で語ったように、個人への便りの形をとりながらも、人間・不染鉄の人生感がにじむ魂の記録でもあり、不染鉄からすべての人の心に宛てた便りである。