2001年から東京・銀座の「伊東屋」で毎年開催されている久下の個展をご覧になった方も多いことだろう。2018年の夏で18回目を数えることになるわけだが、毎回、久下との再会を楽しみに多くのファンが来場している。この個展に引き続き、秋にかけて「マンハッタナーズ・フェア」も全国の主要都市で開催され、各会場では、サイン会などを行ってファンとの交流を深めている。“気取らない”久下の姿を久しぶりに見る鑑賞者は、おおいに親近感を抱くようだ。
2008年に出版された最初の作品集『Twenty Years in New York』から10年ぶりとなる今回の作品集では、久下の作品に対するこだわりや心情などもお伝えしようと考え、久下自身のコメントもまじえつつ、単なるキャプションを超えた解説を作品ごとに付した。
同じ風景を見ても、画家の感じ方は一般の人たちとかなり違うようだ。画家はそうした独特の感性を、さまざまな画材を使ってキャンパスなどに表現していくわけだが、完成した作品だけを観てその感性をつかみとることはなかなか難しい。それゆえ、今回の作品集では、絵画制作に対する久下の意図などをつまびらかにした。
他に類を見ないこの作品集を観る(読む)ことで、フェデリコたち猫を含む久下一家のほのぼのとしたニューヨーク生活だけでなく、世界一の大都市ニューヨークの四季をも体感していただけるはずだ。今回収載したのは2008~17年に制作された192点の作品で、点数が多いためゲラのチェックは困難を極めた。その作業を見ていたある人が、こんなふうに言ってくれた―「市販の旅行ガイドよりもニューヨークのことがよく分かるみたい」。作り手冥利に尽きる言葉である。(新評論編集部)