今もっとも注目を集める写真家の一人である齋藤陽道さんは聴覚に障害がある。子どものときから補聴器を付け発声の練習をしてきた(させられてきた)。学校では聞こえるふりをして、休み時間には本に顔を落としていた。子供のときのことを思い出そうとしても、実感となる思い出がない。
でもろう学校に入って手話と出会ってから、世界が変わった。毎日学校に行くのが楽しくてたまらない。写ルンですが流行ると、友だちを撮りまくった。社会人になると、障害者プロレス団体「ドッグレッグス」でも活躍。そして、いつしか写真の道へ――。
手話、抱擁、格闘技、沈黙……ひとつひとつ向き合えばすべてが声になる。写真家は、さまざまな声と写真を通し、世界を取り戻していく。
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*『声めぐり』は、医学書院(シリーズケアをひらく)の『異なり記念日』と同時刊行されます。
『声めぐり』は齋藤陽道さんが手話に出会い、他者と交流し、「声」を発見するまでが記されています。
『異なり記念日』では、麻奈美さんと結ばれ、樹さんを授かった後の毎日の「声」のやりとりが描かれます。
そしてどちらも、ブックデザインは文平銀座(寄藤文平+鈴木千佳子)。
二つの異なる出版社から、一人の著者の本が、同じデザイナーによって、同時につくられました。