ゲーテとその妻クリスティアーネ(1765‐1816、旧姓ヴルピウス)ほど対照的なカップルを思い浮かべることはできない。生まれも年齢も全く異なり、知的および精神構造の面でも「二つの世界」を具現化しており、それでいて枢密顧問官ゲーテと恋人クリスティアーネ、後に正式の妻となったが、このカップルほど幸福な夫婦は文学史上まれである。クレスマンは二人の正反対の面と同時にまたかくれた共通性を綿密にたどり、「不幸にも、知識人の仲間入りをした」ゲーテの妻を自然の人間として描いている。本書はクリスティアーネの言葉、ゲーテとの性愛(また女性一般にたいするゲーテの関係)、夫婦のアルコール依存症、不幸な息子などがテーマとなっており、著者はこれらすべてを新しい観点から取り上げて、感情的にもおおいに相手の身になって語っている。また天性の生きる知恵をもつクリスティアーネへの共感が隠さず述べられている。