理工系大学の数学の基礎科目である行列は,現在の科学技術計算とは不可分な関係にあり,データ解析やニューラルネットワーク計算などにおいても行列が重要な役割を果たす。また,応用においてはコンピュータを用いた数値計算が用いられ,扱う問題の規模も大きくなることから,計算の誤差や安定性,演算量などを理解して,効率的な計算を行うことが求められる。
本書は応用数理分野の基礎となる連立一次方程式や固有値問題などの線形計算の理論からスーパーコンピュータ上で理論を実用化する並列化手法や計算機実装までをカバーし,当該分野の第一線の研究者を中心として基礎から最新の研究までを解説している。
前半では,連立一次方程式の数値解法から始め,行列の固有値問題および特異値問題の数値解法,最小二乗問題の数値解法,行列関数の数値解法といった,行列による問題の数値計算手法について説明する。後半では,連立一次方程式の解法や,固有値および特異値の計算において,スーパーコンピュータを利用する上で必要となる,データ分散・並列化・前処理・通信量の削減の方法など,HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング,高性能計算)における計算手法や実装方法などを説明する。