明治四一年六月、サントス港に着いた笠戸丸に始まる日系ブラジル移民の歴史にあって、歌は最も民衆的で手っ取り早い娯楽であり続けた。しかも異国に同化せず、日系人のさくの中にとどまり、民族的境界線を形成してきた。本書は、長期間にわたる綿密な調査を下に、戦前を演芸会の時代、終戦から80年代までをのど自慢の時代、その後をカラオケの時代と呼んで、歌の「場」の変遷からブラジル日系社会の歴史を解き明かす試み。