セラピストは、クライエントになる子どもと出会うとき、どんなことを考え、どんなことを感じるのだろうか。本書は、5年間におよぶ、ある少年との心理療法のプロセスを治療者とクライエントの心の通いあいを軸に克明にたどったものである。精神分析的心理療法を治療基盤とする著者は、アンナ・フロイト、クライン、スターン、ウィニコット、ストロロウらの理論と技法を援用しつつ、日常臨床における具体的な知見をわかりやすく解説している。本書を読むことによって読者は、精神分析的心理療法と遊戯療法の基本を身につけられるとともに、クライエント・セラピスト関係における情動の相互作用という考察から、一つの観点にとらわれない本質的な感覚、学派を越えた普遍的な心理療法の治療機序についても理解を深めることができる。