「だから、最初に言ったでしょう。ぼく個人のあれだから」
「もちろん個人の、長さんのあれを聞きたいの。その女のどういうのがよかったんですか、どの部分が」
これは当時33歳の樹木希林さん(当時の芸名は悠木千帆)と44歳のいかりや長介さんの対談の中でのやりとりです。
男女関係の核心をつこうとする樹木さん、逃げるいかりやさん、そこを樹木さんがさらに追い込みます。
内田裕也さんと結婚して3年目、テレビドラマ『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』でブレイク中の樹木さんが、1976(昭和51)年に雑誌『婦人公論』で1年間(出産をはさみつつ)連載した伝説の対談が、初めて書籍になりました。
ゲストは、前出のいかりや長介さんに加え、渥美清さん、五代目中村勘九郎さん、草野心平さん、萩本欽一さん、田淵幸一さん、十代目金原亭馬生さん、つかこうへいさん、山城新伍さん、いかりや長介さん、山田重雄さん、米倉斉加年さん、荒畑寒村さんと、映画スター、TVの人気者から元祖・社会主義運動家まで多種多彩かつ超豪華。
樹木さんは、彼ら12人に、徹底して男と女の話を問いつめます。
解説を寄せた武田砂鉄さんの表現によれば、「相手を当惑させながら、当惑させている間に、相手との距離を縮めていき、思わず相手から必要以上の言葉をこぼれさせるのは、相当な名インタビュアーと言える」。
相手の本心をグッとつかんでしまう言葉と語り口に、最初は度肝を抜かれるかもしれません。
でも、そこには後年の「ありのまま」「自然体」の生き方に通じるものが感じられます。
樹木さんは30代からすごかったのです。
対談の最後には、それぞれ樹木さんの味わい深い「一言」があります。
詩人・草野心平さんの回はこうです。
「この世に生まれてしまった身を恥じらい、なお生きてるということを恥じらう気持ちがフッとみえた時、わたしは男って色っぽいなと思うのです。
そんな時こそ男にとって女が必要だし、女は男に心底惚れるのじゃないでしょうか」
至言ではないでしょうか。本書のタイトルは、ここから取りました。
翌77年、樹木希林と改名後に行われた女性だけの座談会「男は何の役に立つか」(樹木さんと作家・津島佑子さん、ジャズ歌手・安田南さん)も収録。必読です。