20世紀フランス文学を代表する詩人、劇作家であると同時に、優れた外交官であったポール・クローデルが、駐日大使時代に本国外務大臣に書き送った外交書簡集である。ロダンの愛人として知られる姉カミーユのジャポニスムの影響をうけて、日本に魅せられたクローデルが、大使となって東京に赴任したのは、第1次大戦終結から3年後のことであった。クローデルはこれらの報告のなかで、極東の新興勢力として国際社会から注目され、さらなる近代化に向けて邁進する日本社会の諸相を見事な筆で描きだしている。のみならず、この詩人大使は、日英同盟が廃棄され、アメリカの排日移民問題が再燃し、英米の提携が強まる一方で、日本が中心軸をはずれ、孤立を深めつつあることをはっきりと指摘し、その先に到来する事態を正確に見通している。恐るべき洞察力である。英米との開戦にいたる近代日本の転換点を捉えなおすための第一級の資料といえる。