小さな物語のような37篇の旅エッセー集
「旅にでるとき、私はいつも、ちっぽけな子供に戻ってしまう気がする」
《私とその友人は、十三歳のときに女子校で出会った。どちらも本が好きで外国に憧れていて、ドラマティックなことが好きでおいしいものが好きで、すぐに意気投合した。トーマス・クックの時刻表は、私たちの宝物だった。ひろげて部屋の壁に貼り、「壁のその部分だけ外国みたいだ」と思っていた。》
《考えてみれば贅沢で無謀な旅だった。帰る日も決めず(お金の続く限りいようと思っていた)、泊る場所も決めず(いきあたりばったりの旅こそ、私たちの憧れだった)、言葉もできず、でもともかく可能な限りいろいろな乗り物に乗り、可能な限り遠まわりをして、アフリカ大陸に行こうとしていた。……アフリカ行きは、私と彼女のはじめての旅だった。二十一歳だった。》――「トーマス・クックとドモドッソラ」より
このエッセー集は、2016年から2019年にかけてJR九州の車内誌「Please プリーズ」に36回連載されたエッセーに、同じ〈旅〉をテーマにして書かれた長めのエッセー「トーマス・クックとドモドッソラ」、さらに詩を三篇(夜の新幹線はさびしい/軽く/ウィンダ)収録したもの。エッセーの名手による小さな宝物のような一冊。