かつて社会問題にも発展したダイオキシンに代表される化学物質による環境汚染だが、国を挙げた排出規制や環境技術の革新によって排出量は減り、問題は解決したように思われていた。しかし、近年、工業化の進展が著しい中国などの新興国や先進国の環境中に蓄積された化学物質が、大気や降雨、海流などを通じて、世界各地に拡散していることがわかってきた。
汚染はダイオキシン類にとどまらず、水銀やヒ素などの重金属、様々なプラスチック製品が微細に分解されたマイクロプラスチック、直径2.5マイクロメートル以下の微小粒子状物質PM2.5など多種多様に及ぶ。こうした化学物質は、排出源からはるか遠方の北極や南極などにも広がり、海洋生物や極地に住む原住民の体内には無視できない量の化学物質が蓄積されていることが明らかになってきた。第一線の環境化学の専門家たちが、様々な視点から「地球規模の化学物質汚染」についての深刻な状況を報告する。
まえがき
プロローグ 地球をめぐる不都合な物質とは (国立環境研究所 柴田康行)
「第1部 人類が作り出した化学物質が地球を覆う」
第1章 世界に広がるPOPs汚染
海生哺乳動物の化学物質汚染と途上国のダイオキシン汚染
(愛媛大学 田辺信介、国末達也)
第2章 マイクロプラスチック「不都合な運び屋」
(東京農工大学 高田秀重)
第3章 水俣病だけではない「世界をめぐる水銀」
(国立環境研究所 山川茜)
第4章 古くて新しい不都合な物質「重金属」
四大公害病から越境汚染まで
(静岡県立大学 坂田昌弘)
第5章 知られざるPM2・5
何が原因?どこからやってくる?
(国立環境研究所 伏見暁洋)
「第2部 不都合な化学物質は、私たちにどのような影響をもたらすのか?」
第6章 メチル水銀が子どもの発達に与える影響を探る
(東北大学 仲井邦彦)
第7章 化学物質が免疫機構に異常を引き起こす
免疫かくらんとアレルギー疾患
(摂南大学 太田壮一)
第8章 毒に強い動物と弱い動物
解毒酵素を介した化学物質との攻防
(北海道大学 石塚真由美)
エピローグ 化学物質を化学物質をめぐる対立
(国立環境研究所 鈴木規之)