著者は、北海道札幌市にある北洋建設株式会社の経営者。2012年に進行性の難病である「脊髄小脳変性症」を発症し、余命10年と宣告される。
この病気は小脳が徐々に委縮し、運動機能が衰え、手足が不自由になり、言葉も不明瞭になっていく。やがて肺の機能も衰え、最終的には呼吸が止まる。一方で、大脳は正常で頭の働きは何も問題がない。
著者が残りの人生でやるべきこととして選んだのが元受刑者の再犯防止、すなわち居場所づくり。北洋建設は、創業以来、これまで500人以上の元受刑者を受け入れてきた。著者は車いすを押し、全国の刑務所・少年院へ面接に行き、社員として受け入れるだけでなく、再犯防止のための修士論文を書き、時には法務大臣と面会をし、元受刑者のための環境づくりを訴える。
これまで、受け入れに使ってきたのは2億円以上。お金が足りなくなって、土地やマンションを売ったこともある。一方で、同社の元受刑者の定着率は8~9割。突然、姿を消すものも少なくない。それでも、残った元受刑者は、一生懸命働く。「人は仕事があれば再犯をしない」。だから、著者は、余命3年となり、身体が徐々に不自由になりながらも、懸命に活動を続ける。本書は、著者のこれまでの活動を振り返りながら、余命のなかで生きること、さらには人間の存在について、読者に問いかける。
著者は言う。「すべての人に余命がある。自分はその余命がいつなくなるのか、ぼんやりわかっている、それだけの違いにすぎない」と。「かわいそうだと思う必要はない。自分の命をどう使うか考えるきっかけになればいい」。
第27回FNSドキュメンタリー大賞「弐千円札と元受刑者 余命4年 難病社長の夢」にノミネートされるなど、多くのメディアからも注目を浴びる著者による、最初で最後の1冊。