唯一の関係者が綴る恩師の冤罪と事件の真相
敗戦間際、米軍B29搭乗員捕虜8名が九州帝大での生体実験手術で死亡した。震撼の事件を精密に記録した名著を後世のために再刊行
「戦争も末期になると、敵も味方も互いに異常なほど狂気に支配されることをこの事件から教えられました。戦争ほど人間の悲惨と愚劣をみせるものはほかにないと思いました」(「追記」より)
――丹念な取材調査と入手困難な資料に裏打ちされた事件手記の決定版。混乱する軍の指揮系統や責任回避の姿勢、GHQによるBC級戦犯裁判の拙速さなどが明らかになる。B29機長へのインタビューも掲載。
すでに述べたことだが、読者の誤解と混乱を避けるために「生体解剖」の言葉の意味を再び説明しておかねばならない。vivisection(生体解剖)とは人間を生きたまま解剖することで、解剖学で普通にいう「屍体解剖section」とは本質的に意味を異にする。
解剖関係の医師が臓器を調査研究するため屍体を解剖したり、または屍体の臓器を採取するのが、普通にいう「解剖」つまりsectionである。これは手術もしくは実験手術が生きている生命に対して行なわれるのと本質的に異なり、厳密に区別されなければならぬ重要な問題である。
ところが、戦犯法廷における検事側は宣伝効果をねらう戦術か、手術も解剖も一緒にして「vivisection」という言葉を使い、日本の報道関係も「生体解剖」として猟奇的興味をいやが上にも煽り立てた。このため、解剖学教室の関係者の容疑事実である「屍体解剖section」が「生体解剖vivisection」であるかのように受けとられてしまったのである。(本文より)