本を読んで暮らしたいだけだった。中間小説雑誌が熱かった時代に小説の洗礼を受けた青年は気づけば書評家になっていた。エンタメ書評界の回想録本を読むだけでは生活できない。そのくらいはわかっていた。だから、働く必要がある。ここまではわかるのだが、そこから先がわからない。働くことのイメージが何もないのだ。つきたい職業が一つもなかった。それが二十歳のときの正直な実感である。(あとがきより)