悪い奴は誰も、その男の顔を知らない――
逢坂剛が描く〈火付盗賊改・長谷川平蔵〉シリーズ、第三弾。
不届きにも、「闇の平蔵」と名乗る者が現われた。
闇の平蔵は、「火盗改が、悪党どもを成敗処罰するのと引き換えに、捕り方の役人を同じように成敗処罰する」と公言し、火盗改や役人に強い遺恨を抱いている悪党を集めているという。その噂を聞きつけた長谷川平蔵組の斧八は、「闇の平蔵」の人集めへ潜り込んだ。
「闇の平蔵」は、かつて、遊蕩していた頃の長谷川平蔵に何度も煮え湯を飲まされ、恨みを抱いているという。そこに来ていた紅一点・可久は「闇の平蔵」に、その話を信用してほしければ頭巾を脱いで顔を見せろ、お前は実は長谷川平蔵なのではないか、と迫る。
闇の平蔵は頭巾を脱いだが、手下の斧八でさえ長谷川平蔵の顔をまともに見たことはなく、彼が長谷川平蔵なのかそうでないのか判断がつかない。
だが、可久は、「この男は本物の長谷川平蔵だ」と言い、闇の平蔵もそれを認める。
慌てた斧八だったが――(「闇の平蔵」)
表題作ほか、全六篇を収録。長谷川平蔵に対抗心を抱く火盗改・松平左金吾が登場、新たな手下・可久も加わり、物語はますます深みを増す。
まさに江戸を舞台にした潜入捜査。悪党どころか、手下たちも顔を知らない男・長谷川平蔵のハードボイルドな活躍を描く。