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  • 著者ブルーノ・ラトゥール 川村久美子
  • 出版社新評論
  • ISBN9784794811325
  • 発行2019年12月

地球に降り立つ / 新気候体制を生き抜くための政治

経済成長戦略によって「富裕な共有世界」を限りなく広げるというグローバル化の夢、その実現に向けて戦後の世界は開発一辺倒の道を歩み続けてきた。一方、2015年のパリ気候協定締結時、各国代表はもう一つの見解を共有するに至った。地球の物理的限界ゆえに、もはや各国の開発プログラムのすべてを実現するのは不可能だと気づいたのだ。しかし、その後に続く米国政府によるパリ協定離脱、地球温暖化の否認、脱グローバル化・保護主義の動き、国境の壁建設などは何を意味するのだろうか。世界の一部の富者だけが富を独占し、残りのすべての人々を捨象する昨日までと同じ計画が、新たにうねり出した新気候体制の下、米国のみならず日本を含む大国の間で、これまで以上の勢いで推し進められているのである。自国の経済成長と地球規模の気候変動対策は両立しえない。ところが多くの人々は依然、経済のグローバル化の夢の中にいる。
 これまで近代科学は、自然を、人間活動とは無縁の客観的世界として描いてきた。そのため自然は「不動の背景」となって人間の欲望や果てしない夢を支えてきた。今日、地球環境破壊の亢進によってその「不動の背景」が動きつつある。米国も他の大国もその事実を知っている。しかしそれを隠蔽しそれとは裏腹なバラ色の世界を描く。世界政治は今、生物的身体が居住する現実世界の「現実」そのものを否認し、「物理的対象を失った」状態にある。
 本書はこうした危機的状況が作り出される政治構造を明らかにし、そこから脱出するための現実的思考を人類共有の構築物として鮮やかに描き出す。必要なのはグローバルでも国家でもなく、地球規模の政治体系のもとで、人類を近代の呪縛から解き放ち、人類を「地球に降り立たせる(Down to earth)」ことである。
 著者ラトゥールは科学と社会の関係を軸に、科学人類学の視点から長年にわたり近代文明を分析し続けてきた。その世界的影響力は学界のみならずメディアや政治領域にまで及ぶ。最近では地球科学の研究者グループとも連携し、人類活動の変革のための共闘体制を築いている。人類の危機対処能力を格段に高めるための思考実践として、多くの知識人、専門家、市民の方々に読んでほしい問題の著である。(かわむら・くみこ 東京都市大学名誉教授/科学社会学)

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