ハンガリー王国大蔵省の役人のバログは、敵軍迫る首都から国有財産の退避を命じられ、政府がユダヤ人から没収した財産を積んだ「黄金列車」の運行にかかわることになる。バログは財宝を狙う有象無象を相手に、文官の論理と交渉術を持って渡り合っていくが、一方で、ユダヤ人の財産である物品は彼を過去の思い出へといざなう。かつて友誼を結んだユダヤ人の友人たち、妻との出会い、輝くような青春の思い出と、徐々に迫ってくる戦争の影――。ヨーロッパを疾駆する機関車のなか、現在と過去を行き来しながらバログはある決意を固める。実在した「黄金列車」の詳細な資料を元に物語を飛翔させる、佐藤亜紀の新たな代表作!