当時、少年であったにしても、著者は人一倍、慚愧の念と、悔悟すべき重い荷を背負っているのである。著者は兵卒のひとりと同じ家で寝食をともにしていたのである。そして、虐殺現場をつぶさにこの眼で見、話すのを耳にする機会を得ていたのである。それにもかかわらず、著者はそれらのことを見たり、聞いたりしても、敵の捕虜や売国奴と断定された国民の弑逆を止むを得ないものとして、特別な感傷や感慨を持たなかった。その著者の半世紀を超える以前の過去の出来事を、なるべく正確な記憶で再現し、時間の経過にそって書かれたのが本書である。虚しい栄光と幻想に酔い、虚構の大義にうつつを抜かした灰色の日々の記憶である本書の執筆は、自分自身をも告発したいという思いもあってのことであった。