北関東の小さな集落で、家々の壁に描かれた、子供の落書きのような奇妙な絵。決して上手いとは言えないものの、その色彩の鮮やかさと力強さが訴えかけてくる。そんな絵を描き続ける男、伊苅にノンフィクションライターの「私」は取材を試みるが、寡黙な彼はほとんど何も語ろうとしない。彼はなぜ絵を描き続けるのか――。だが周辺を取材するうちに、絵に隠された真実と、孤独な男の半生が次第に明らかになっていく。抑制された語り口ながら、読了後に感動が待ち受ける傑作長編。