女になりたいのではない、「私」でありたい
ゆるやかな絶望を生きる男が唯一求めたのは、
美しくなることだった
選考委員・磯﨑憲一郎、斎藤美奈子、村田沙耶香、困惑、そして驚愕。
物議を醸すニヒリズムの極北、28歳の新たなる才能。第56回文藝賞受賞作。
メイクやコーディネイト、女性らしい仕草の研究……。
美しくなるために日々努力する大学生の私は、コールセンターのバイトで稼いだ金を、美容とデリヘルに費やしていた。
やがて私は他人に自分の女装した姿を見て欲しいと思うようになる。
美しさを他人に認められたい――唯一抱いたその望みが、性をめぐる理不尽な暴力とともに、絶望の頂へと私を導いてゆく。
まるで都市開発プロジェクトのような、無愛想で冷徹な語り口。在り来りの現代小説ではない。
――磯﨑憲一郎
女性に親和性の高い感覚を、男性主人公を通して描ききった。「性の多様性」では表現しきれぬ、屈折を抱え込んだ問題提起作。
――斎藤美奈子
「美しさ」への無感情な執着とでもいうような、奇妙な拘りの面白さ。
――村田沙耶香
〈著者略歴〉
1991年、神奈川県生まれ。慶応義塾大学法学部卒業。東京都在住。2019年、第56回文藝賞を受賞。