作って、食べて、考える。
「私、結婚したら毎日違う料理を作るんだ!」ある先輩が発したこの言葉に誘われるようにして、文化人類学者は「家庭料理」というフィールドにおもむく。
江上トミ、土井勝、小林カツ代、栗原はるみ、土井義晴といった個性豊かな料理研究家たちの著作、「食べるラー油」ブームの火付け役となった生活情報誌『マート』、レシピ投稿サービス「クックパッド」。数々のレシピをもとに調理と実食を繰り返し、生活と学問を往復しながら家庭料理をめぐる諸関係の変遷を追跡する。
心を込めた手作りが大事なのか、手軽なアイディア料理が素晴らしいのか、家族がそれぞれ好きに食べる個食はなぜ非難されるのか、市販の合わせ調味料は「我が家の味」を壊すのか、レシピのデータベース化は何をもたらしたのか、私たちは暮らしを自由にデザインできるのか?
家庭料理をめぐる様々な問いと倫理が浮かびあがり、それらが互いに対立しながら部分的につながっていく。何らかの価値判断を押しだすのでもなく、それらをシニカルに論評するのでもない。日々の料理を作り食べること、それは暮らしという足下から私たち自身を考えることにつながっている。