古代日本とは文献以前の日本である。その日本人たちは自分たちの世界をどう見ていたのだろう。何を信じ、何を恐れ、何を幸せと思っていたのだろう。つまり、日本文化の基盤はどんな様子であったのか。そのことを出来るだけ明らかにしてみたいと思う。 言葉を明らかにすることは、事柄を明らかにすることであり、また精神を明らかにすることである。個々の語は、人々が判断を表明し、思想を述べるための資材に過ぎない。しかしどんな独創的な思想も、この資材によってしか表明できない。この資材は日本人が物や出来事や、行為や状態を、これと見定めてとらえる把握の仕方を、社会的に民族的に共有の資産として確立したものである。この資産を分析し、その組成を明らかにすれば、それによって構築された思想という建築物が、どんな大きさで、どんな間取りで、どんな重みに耐えるものかなどを推定することができよう。(本書から抜粋)