紀元前416年、ギリシャはアテナイのさるパーティーの席上、アテナイにおいて各分野で活躍している、話題豊かで話術巧みな才人たちが、酒を酌み交わしながら、愛の神エロスについての蘊蓄を披瀝し合うこととなった。その模様を再現した『饗宴』は、突如場面が変化する劇的な展開、韻文の文体をふんだんに盛り込んだ美しい表現、全編どの一句・一文まで考え尽くされた巧妙な論旨の進行、興味深い神話をよりどころにした卓抜な比喩、首尾一貫した緊密な構成、そして愛をめぐるさまざまな議論が、きらびやかに錯綜するこの上なく豊かな内容、いずれの面からも完璧な作品となった。古今東西のあらゆる書物の中で、最高傑作の一つとして認められ、哲学・倫理学・美学・教育学・文学といった、特定の学問領域に収まりきれない古典中の古典である。