• Author土田昇
  • Publisherみすず書房
  • ISBN9784622088929
  • Publish Date2020年4月

刃物たるべく / 職人の昭和

焦土と化した国のあちこちに再び槌音が響く。戦時下には軍刀作りを余儀なくされた道具鍛冶たちも、鑿や鉋を作りはじめる。誠実な職人仕事によって、それぞれの小さな生活を成り立たせながら、技術伝達をおこたらず……
神武景気、岩戸景気、いざなぎ景気と呼ばれた、戦後のいくつかの好景気の波は、豊かさや便利さを生活にもたらす一方で、日本人の価値観や感性をも変えていった。より安価に、早く、多くのものを均一に生産しうる新技術や新素材は、道具を使ってものを生み出すことにかかわる価値観や道徳を変質させ、あれほどの輝きを放った技術の系譜は、昭和から平成へと時代が移る頃、老鍛冶・老職人たちの退場とともに終焉を迎えようとしていた。
時代の要請を失った最高レベルの技術。その生かしどころを求めて塔模型製作に没頭した天才建具師。使用者重視の製作思想のもと、かの千代鶴是秀を唸らせる実用道具を作った名工たらざる名工。鋸の目立技術に秀でた祖父の老いと死をとおして見えてくる職人の道徳……
木と鉄と石を介した感触の世界につねに立ち戻りつつ、失われたもの、受け継がれたものを描く。

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