会社の開発中枢にいる若者が突然提出した辞表に、他社の引き抜きかと疑う上司や同僚。しかし彼が友人や家族にまで隠した退職の理由は、脱サラで「居酒屋」になることだった。少年時代からの夢を居酒屋の老亭主との出会いをきっかけに実行しただけなのだが、憶測が憶測を呼び、信頼していた友も恋人も彼の元を去っていく…。表題作「居酒屋志願」をはじめありふれた日常風景の中から、著者ならではの温かな視線で人間の本質を掘り下げ、紡がれた物語は読む人の心を癒す珠玉の傑作短編集。