書かれたとおりに読まなくていい。どこから読んでもかまわない。
一気読みできる本のように、一望して見渡せる生など、ない。
「小説の自由」を求める山下澄人による、「通読」の呪いを解く書。
父はおらず、口のきけない母に育てられたトシは、5歳で親戚にもらい子にやられた。
だがその養親に放置され、実家に戻ってきたのちトシは、10歳で犬と共にほら穴住まいを始める。
そこにやってきたのは、足が少し不自由な同じ歳の少女サナ。サナも、親の元を飛び出した子どもだった――。
親からも社会からも助けの手を差し伸べられず、暴力と死に取り囲まれ、しかし犬にはつねに寄り添われ、未曽有の災害を生き抜いたすえに、老い、やがていのちの外に出た<犬少年>が体験した、生の時間とは。
【著者略歴】
山下澄人(やました・すみと)
1966年、兵庫県生まれ。富良野塾2期生。96年より劇団FICTIONを主宰。2012年『緑のさる』で野間文芸新人賞を、17年「しんせかい」で芥川賞を受賞。その他の著書に『ギッちょん』『砂漠ダンス』『コルバトントリ』『鳥の会議』『小鳥、来る』などがある。