内外ともに金価格の過去最高値更新が迫っている。世界的な金融経済の大混乱の中で、欧米投資マネーの金市場への資金シフトが急速に進んでいる。NYゴールドのチャートは、2020年4月初旬から約3カ月にわたる1700ドル台の値固めを終え、その後上放なれ1800ドル台に入った。金価格を押し上げたのは、欧米の個人投資家から年金基金に至るすそ野の広い資金の金ETF(上場投信)の買いだった。マスのマネーによる底上げといえる相場展開といえた。発生したイベントに反応したNY金先物市場でのヘッジファンドの買いによる短期急騰相場とは性格を異にするもので、筆者は「マクロ型の上昇」と捉え上昇波動の長期化を読む。世界の金融経済の構造変化をとらえたゴールドの大相場が始まっている。
金市場が注目するのは米国の状況だが、財政赤字の歴史的拡大はすでに既定路線で、急増する国債発行による金利上昇を抑えるための米連邦準備理事会(FRB)による国債買い入れも激増している。財務省の金庫とFRBの一体化は、財政ファイナンスに近いもので、FRBの日銀化といえるもの。急激に膨らむ財政赤字に、減少しない貿易赤字。近い将来、米国での「双子の赤字」問題が、世界経済の懸念事項として急浮上するとみる。通貨供給の急増は通貨の「減価(Debasement=堕落)」を意味するが、足元でドルも円も為替市場では安定した価値を保っている。しかし筆者は、両通貨ともに「通貨信認の基盤」は水面下で侵食されているととらえる。現状は「通貨の堕落」だが、やがて次のステージとなる「通貨の凋落」につながるとみる。通貨供給を中央銀行の裁量にゆだねる管理通貨制度。その行き着いた果てのバブルの生成と崩壊を繰り返す金融市場。その枠外にある絶対的価値基準「無国籍通貨ゴールド」への資金逃避は、やがてゴールドのバブル相場を生みだすことになる。