フロイトはその最晩年、自身の民族文化の淵源たるユダヤ教に感じてきた居心地の悪さに対峙する。それは、"エス論者"として自らが構築してきた精神分析理論を揺るがしかねない試みであり、「生命と歴史」という巨大な謎と正面から格闘することでもあった。「もはや失うものがない者に固有の大胆さでもって、…これまで差し控えておいた結末部を付け加えることにする」-ファシズムの嵐が吹き荒れる第二次世界大戦直前のヨーロッパで、万感の思いをこめて書き上げられた、フロイトの恐るべき遺書。