啓蒙によって文明を獲得し、野蛮を克服してきたはずの人類は、しかし、啓蒙によって新しい野蛮状態へと落ちこんでいく。この啓蒙の自己崩壊を仮借なく批判できるのは、理性の自己批判能力以外にない。理性の否定と理性によるユートピアとを微妙に交錯させながら近代を考えぬいたこの20世紀の古典は、人類史を貫く文明化の過程に垂直にくさびを打ちこんでいる。