ついに何かが、決壊する――
奥田英朗の、大藪春彦賞受賞作。講談社文庫創刊50周年新装版!!
静かに見える毎日の暮らしに、
隠されている極限状況。
奥田英朗は、新人の頃から凄い!
夜の冷気が空から降りかかってくる。
地面も九野の体温を奪おうとしていた。
死なないでくれよ。恭子のことを思った。死ぬことはない。
自分で死ななければならないことなど、人生にはないのだ。(本文より)
どうして自分が、こんな目に。
夫への疑念が深まり、いたたまれない恭子は、仲間に誘われた会社との「団体交渉」にのめりこんでゆく。放火の容疑者を追う九野は、容疑を確信しつつ逮捕にこぎつけられない。心がぎりぎりまで追い詰められた二人の中で、何かがついに決壊する――。日常に潜む極限状況を鮮明に描く傑作。【大藪春彦賞受賞作】