著者は現代チベット仏教界における中堅世代の一人。1961年ブータン生まれ。7歳の頃、ケンツェの系譜を受け継ぐ転生者の一人として認定される。ダライ・ラマなど偉大な師から教えを受け、またロンドン大学東洋アフリカ学院で比較宗教学を学ぶ。チベット、インド、ブータンの僧院で指導にあたるほか、世界各国にダルマセンターを設立して修行者を指導、欧米、オーストラリア、ラテン・アメリカ等でも精力的に法話会を開催し、文化や伝統などの枠組みにとらわれず仏教の本質への理解を深めるための活動を行っている。また映画『ザ・カップ――夢のアンテナ』(1999年)をはじめこれまでに5本の映画制作を行ってきた異色の仏教僧。
本書は、仏教の基本の概念として知られる四法印(しほういん)を、仏教の初心者にもわかりやすく概説した書である。四法印は、これまで「諸行無常」「一切皆苦」「諸法無我」「涅槃寂静」として知られているが、本書ではそのような難しい仏教用語の使用を避け、次のように、平易な言葉づかいで説明されている。(1)あらゆるものは組み合わせによって成り立っている無常な現象であり、それらに執着し続けることはできない。(2)感情は究極的にはすべて苦しみである。自己こそ苦しみの元凶である。(3)すべてのものは本質的には存在しない。それに気付けば執着することの無益さがわかる。(4)悟りとは心に宿る様々な概念を超越することである。
本書では、ウィットやユーモアを交えながら、現代の身近なたとえ話を多く用いることで、ともすると「とっつきにくい」印象を与えがちな仏教の教えをわかりやすく伝えるとともに、仏教の教えが時代遅れなものではなく、現代の私たちに賢く生きる知恵をあたえるものであることを示している。なお、今回の翻訳は日本での出版に合わせて改訂されたもので、安室奈美恵など日本のことが随所に登場するため、日本の読者も親近感が感じられるだろう。
原書は2006年に英語版が出版されて以来、フランス語、ドイツ語といったヨーロッパ言語のみならず、中国語、ヘブライ語、インドネシア語など20以上の言語に翻訳され、合計18万6千部発行されている。