僕は死なずに帰ってきた。
そして、少しだけ“幸福”になっていた。
人生ミスったら、自殺しなければならない。
そう信じて夢破れた男が出かけた欧州独り旅。
道に迷った彼に贈られた言葉は「エンジョイ」。
語りえぬ体験談を語り尽くす哲学的紀行エッセイ。
大学卒業後7年間自宅に引きこもり、ひたすら一作の小説を書くも結果が出ず、
まるで将来の見通しは立たず、未納が続く国民年金は当然もらうべくもない、
苦しくも貧しい老後の見通しだけは立つ。
その上、いわゆるリーマンショックの翌年ゆえ、ろくな仕事の求人もない。
むろん恋人はおろか、友人もいない。つまり、人生お先真っ暗だ。
――そして、絶望と失意のもと、彼は全財産の40万円を持って当てもなく漂うように欧州へ旅立った。
度重なる沈黙。通じない言語ゲーム。見つからないバスタブ付きの宿。
イギリスで敬愛する哲学者の墓参り、ルーマニアで野犬に追われ、
クロアチアでカレーを奢られ、ウィーンでベートーヴェンを聴き逃し、
ドイツでホームレスを経験後「あっ」という間に自宅に帰ってきた
ヴィトゲンシュタイン情報蒐集家兼小説家兼法律事務所アルバイターは
なぜ自殺しないで生きのびたのか。
ツルツルした理論文学論考から、ザラザラした文学探究の世界へ。
【目次】
はじめに
1:自殺するなら旅に出よう――イギリス
2:自殺するなら旅に出よ――アイルランド
3:自殺するなら旅に出――ルーマニアとブルガリア
3・1:自殺するならブルガリアを出よう――ブルガリア
4:自殺するなら旅に――旧ユーゴ前編
5:自殺するなら旅――旧ユーゴ後編
6:自殺するなら――ウィーン
7:自殺するな――ドイツ
おわりに