夫婦がずれていく。コロナ? がん? もっと大きな何かで。コロナ禍の家族を描く直木賞作家の最新作
新型コロナウイルスが世界を覆っている2020年9月、名香子が夫の良治から頼まれていっしょに向かった先は、都立がんセンターだった。そこで肺がんの診断を受けた良治は、一方的に、家を出て好きな人と暮らしながら治療をすると名香子に告げる。呆然とする名香子だったが、事態は“蝶”の羽ばたきのように次々と思いもかけぬ方向へと進んでいくのだった
人生は無数の「もしも」の連続だ
推薦コメント
「自分の人生は自分で作っていけると思いこんでいるが、そうだろうかと小説に問われている気がして、私はこわくなる」――角田光代(作家)
「人類最大の不幸は、生殖を完遂した雌雄が、何十年も一緒に暮らすことだ。「男と女」を擬態するのに、人生100年(夫婦生活70年)はあまりにも長すぎる…!
夫婦の道は、二つに一つ。いっそ、男と女でない何かになるか。
そんな男(女)は、最初からいなかったことにするか。
この世の夫婦は、必ず、そのどちらかの選択を迫られる。
この小説の主人公は、ある日、その結論を突きつけられる。
夫が先に、その選択を決めたから。
「熟れて落ちる果実」のように、夫婦して、ゆっくりとどちらかの道に落ちていくのが
一番いいのだけれど、そうはいかない夫婦もいる。
はてさて、突然もぎ取られた果実を、彼女がどう調理して、どう呑み込むのか。
人生の真実を一つ、召し上がれ」
――黒川伊保子(人工知能研究者・感性アナリスト)
担当編集より
白石さんは、一貫して人間の運命という手に負えないものを、様々な形で書いていらっしゃいます。今作は、その運命について、まったく難解でもなく、現実離れした部分もなく、力みもなく、素晴らしい筆致で一気に読者を結末まで運びます。まさに熟練の境地です。
ラストシーンで、タイトルの意味がわかりますが、この結末をどう受け取るか、ぜひさまざまな方に読んでいただいてご意見を伺いたいです。