快速が停まらない街、しかも駅から徒歩十五分。荒川沿いに立つ築三十年のアパートに井川幹太はひとりで暮らしていた。学生時代も、就職してからも、会社を辞めてからも、ずっとおなじ部屋でのひとり暮らし。やりたいことも見つからぬまま、気がつけば二十七歳になっていた。父は高校生のときに他界、母は再婚して別の家庭をもっていたから、いまの幹太の生活は自分ひとりだけのもの。コンビニでアルバイトをしながら、たまに結婚式の代理出席のバイトも入れる以外は、これといって何もない日々。そんなある日、上の部屋に戸田という騒がしい男が引っ越してきて、奇妙なつきあいがはじまる。図々しく遠慮のない言動を警戒していたが、自分の過ちを隠そうともしないあけっぴろげな戸田とその家族のすがたに、幹太は次第に惹かれていく。――。未来に何の期待も持てずにいた青年が、明日への一歩を踏み出すまでを描いた胸に迫る青春小説。