史上最強の戦略の聖典を、日本を代表する経営学者が大胆に読み解く
●一流の研究者が初めて挑戦
『孫子』は、古来多くの武将が座右の書とし、多くの経済人も経営やリーダーシップについて学んできました。だが、そんな戦略の聖典であるにもかかわらず、一流の経営学者が正面からその本質に挑むことはありませんでした。過去の『孫子』関連書は大部分が中国文化研究者によるもので、軍事関係者、コンサルタントが一部を担う形でした。本書は、日本を代表する経営学者が、真正面から『孫子』に挑み、その真の凄さを明らかにするものです。
本書は、一言一句を解釈する従来の孫子解説書のスタイルではありません。『孫子』全体のあちこちに、経営について含蓄の深い言葉がちりばめられており、それらの言葉の中から珠玉の三十の言葉を選び、それらを経営のトピックごとに体系化して章として再構成しました。
●物理と心理の名著
筆者の伊丹氏は『孫子』の深い洞察の源は第一に、孫子の人間理解の深さにあるとしています。君や将の陥りやすい間違いについて、あるいは現場の兵の心理について、温かくも冷徹な視線を孫子は投げかけています。そして深い洞察の第二の源は、国防と戦争についてつねに「物理」と「心理」の両にらみで考えるととらえている、戦争を指揮する人間は、戦争の物理的力学と将兵の人間心理学の両方をきちんと両にらみで考えなければならない、ととらえています。
こうして「人間理解の深さ」と「物理と心理の両にらみ」という二つの源泉があるがゆえに、経営やリーダーシップについての深い洞察を多くの人が『孫子』から得ることができるのです。経営とは、人間集団を率いること、統御することで、そのためには深い人間理解が欠かせません。さらに事業活動の現場では、事業の経済的力学と現場の人間心理学の両方のかけ算で、すべてのことが動いています。片方だけでは、経営の全体理解はとてもできないのです。筆者は、『孫子』を、さまざまな戦さの実態の観察と自らの経験をベースに、そこから論理を抽出する、という方法で書いたと考えています。現役経営者の生の発言を濾過し、戦略の論理を明らかにしてきた伊丹氏にとって『孫子』は共感を大いに抱く書であると言えます。