作家・浅生鴨による責任編集の下で、「『五分』という単語を作品中に使うこと」だけを条件に、各分野の書き手19人が自由に書いた同人誌を文庫化。
小説、エッセイ、漫画、短歌、イラスト、インタビュー、パズルなど、幅広いジャンルの作品を多数掲載した文芸同人誌の枠を超えたアンソロジー集。
『朱に交われば赤くなるというけれども、どれほど朱い海の中を泳ごうとも、最後まで染まり切らずわずかに残る蒼こそが個人というものなのに、なぜか今僕たちは、みんなで寄ってたかってその残された蒼を朱く塗ろうとしている。それも悪意ではなく親切心で。個人を消し去ることが大切だと言わんばかりに、個人なんかでいては苦労するばかりなのだからというお節介な助言とともに。たぶん今の僕に必要なのは、切り離されることだ。どこにもつながらないことだ。個人として孤立し、誰にも理解されないまま孤独の中に打ち震える時間を丁寧に持つことで、ようやく僕は、かつて持っていたはずの、あの僕の蒼を取り戻すことができる。』
(浅生鴨「あの僕の蒼を」より)