シリーズ累計50万部突破!
『54字の物語』の著者が贈る
5分で読める49話
『空白小説』は、書き出しと結びの文だけがはじめから決まっているショートショート集です。
その間の空白をどう埋めるかで、物語は予想できない方向へと展開し、書き出しと結びのもつ意味は大きく変わります。
あなたは「空白」の展開を予想できますか?
〇吾輩は猫である → 名前はまだない
〇犯人はこの中にいる → 私がやりました
〇昔々あるところにおばあさんがいました → いつまでも幸せに暮らしました
など
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(本文より)
〇吾輩は猫である→名前はまだない
吾輩は猫である。誰よりも自由な猫である。
家の塀にひょいと飛び乗り、ふわぁとあくびをする。そこへひとりの少女がやってきた。少しだけ撫でさせてやろうと「にゃあ」と声をかける。しかし少女は「ひっ」と悲鳴をあげ、どこかへ逃げていった。
しばらくすると怪訝な顔をした人間の大人たちが集まってきた。あっという間に屈強な男たちに取り押さえられ、吾輩は眠らされてしまった。
目を覚ますと、吾輩は薬品の匂いのする部屋にいた。周りで白衣を着た男たちが首をかしげている。
「自分を猫だと思い込んでいるようです」
「見た目は中年の男だぞ」
「ですが実際に尻尾まで生えてきています」
「海外でも最近似たような症例が増えているとか」
「病名は?」
「発見されたばかりの病気だ。名前はまだない」
(『自由』より要約)