対談、座談の多い印象のある森だが、この本はその中でも出色の一品。大抵の場合、森毅のキャラクターが場の空気を制圧して、対談全体がゆるくホニャララなものになってしまうところ、終始冷静な竹内啓は森が出す論点(そして小ネタやとぼけ)のことごとくに異論をとなえ冷水を浴びせかける。
こうして、森の面白おかしいネタへの脱線と、それに応じない竹内の生真面目な切り返し、森の縦横無尽に展開する雑学と竹内の実用知の経験とが混じり合い、絶妙の汽水域を作り出していて、数学の純粋な楽しみと応用の豊かさ、そして自由さや厳密性がモザイクと化して、数学の多面的な魅力を描き出し、数学オンチの自分が、それでも諦め悪く数学と付き合い続けるルーツとなっている。
(読書猿――〈web中公新書〉「私をつくった中公新書」より)
集合ブームの学校数学への疑問から始まり、例えば算数でおなじみの+-×÷などにも数学の本質的な構造が意外に深く根をおろしていることを明らかにし、ついで、ユニークな発想で数学の世界の生い立ちをとらえる。教育にも深いかかわりをもつ数学者と、数学の社会的役割に強い関心をよせる統計学者のイキの合った討議は、人間の文化を豊かにするものとしての数学の世界を楽しく描き出し、その教え方、使われ方の現状を的確に批判する。
解説は、『独学大全』の読書猿。
【目次】
はしがき 竹内 啓
第一部 数学の世界を獲得する
数学と論理
基数・序数・自然数
たす・ひく・かける・わる
連続量と実数
関数
代数系
第二部 数学の世界をふりかえる
ギリシャ 数学の世界の誕生
イスラム 代数の発達
十六、十七世紀 数学の世界の大展開
十八世紀 偉大な職人の世紀
十九世紀 専門家の時代
現代 構造解明の数学
第三部 数学の世界を楽しむ
あとがき 森 毅
文庫版のためのあとがき 竹内 啓
解説 読書猿