本屋は焚き火である
本と人が集い、直接触れあえる場所、本屋。なぜ人は敢えて本屋をたずねるのか。書店員は仕事に何を求め、自分の個性をどう生かし、どんな仕事をつくっているのか。本屋という仕事から見える、新しい働き方の形。
〓本書に登場する18人の書店員
モリテツヤ(汽水空港)
宇田智子(市場の古本屋ウララ)
田尻久子(橙書店・オレンジ)
奈良敏行(定有堂書店)
辻山良雄(Title)
堀部篤史(誠光社)
黒田義隆(ON READING)
北村知之(梅田 蔦屋書店)
岡村正純(大阪高裁内ブックセンター)
徳永圭子(丸善博多店)
東二町順也(紀伊國屋書店新宿本店)
北田博充(書肆汽水域・梅田 蔦屋書店)
磯上竜也(toi books)
長江貴士(元さわや書店フェザン店)
鎌田裕樹(元恵文社一乗寺店)
狩野 俊(コクテイル書房)
田口幹人(合同会社未来読書研究所・北上書房)
編者:三砂慶明(読書室・梅田 蔦屋書店)
〓本文「序」より
この企画をすすめるにあたり、最初、脳裏に浮かんだのが、定有堂書店の奈良さんの言葉でした。私が定有堂書店でお話を伺っていて印象的だったのは、「本屋は焚き火である」というお話でした。
一冊一冊の本には、それぞれ著者の熱がこめられていて、それがまるで焚き火のように読者を温めている。焚き火は暖かいからまわりに人が集まってきますが、みんなが火にあたりに来るだけではいつか消えてしまいます。でも、来る人がそれぞれ薪を一本ずつ置いていけば、火は燃えつづけることができるのだと奈良さんに教えていただきました。
私たち本屋は本を並べることで、読者は本を買うことでお互いを支えつづけています。私は奈良さんの言葉を聞いて、はじめて自分の仕事を通して何か世の中の役に立っているのかもしれないと実感することができました。
私たちの生きている世界は、私たちが積み重ねてきた仕事の上に成り立っています。私たちが住む家も、着る服も、食事も、誰かの仕事の結果です。私たちは生きている時間の大半をそれぞれの仕事に費やしています。だから、良い仕事をすることは、より善く生きることと密接につながっています。
私は本屋で働いているので本が中心ですが、本屋の仕事について改めてもっと深く知りたくなりました。尊敬する書店員の方たちは、なぜ本屋を選んだのか。働くことを通してどんな価値を生みだしてきたのか。本への愛憎。本棚の耕し方。お客様との対話。お店を成り立たせるためのマネジメントについて、書店員の先輩方にたずねてみることはきっと、ほかの職業にも通底する本質的な問いだと信じています。